坂爪勝幸の土(陶)の仕事は、これまで私が国内で見たあらゆる土の仕事と決定的に違っていた。その意味では、従来の日本の風土では異質の陶の作家と言ってよい。作品はわずかなカーブや曲面を描きながら、おおむねジオメトリック(幾何的)な形態をしている。その形から多くの特徴を見い出すことはできないだろう。
しかし、その変型的な矩形のどっしりとした作品が現しているものは、そでにイメージが流麗に飛び交うようなソフィスティケートされたものなどではない。圧倒的な存在感であり、もはや土(陶)とは呼べないかも知れない物体そのものの現前なのだ。叩くと、確かに通常の陶の音とは異なる。何か金属でも叩いて出るような音である。また、窯変で得られる土の肌や色相の変化も釉薬で彩色したイメージとは異なる。むしろ、土の根源から、その内なる“精”のようなものが表面に露出しているようにも感じられるのである。
坂爪の作品を決定づけている最大の要因は、“焼き締め”である。焼くという陶の生成のもっとも原初的なポイントに降り立ち、その方法の究極を極めようとする。焼成の温度はゆうに1370度を超え、測定不可能なポイントでは、それを上回るとも言う。それは、土と火のもっともエロティックな出会いであり、結晶と言えるだろう。
坂爪の作品が日本の脆弱で湿潤な土壌とは異質な作風を生んだ背景はやはり10年に及ぶアメリカ滞在であった。ピーター・ヴォーカスとの出会いが、坂爪に影響したことは言うまでもない。
(宇都宮美術館館長・谷 新)
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