越後平野は日本の米どころ、さらには銘酒の里。その坦々として広がる田園を北上すると中条の街並み、その山裾が半山。ここに坂爪さんの穴窯がある。
大らかな工房と、窯の辺りには山と積み上げられた松の薪、いかにも窯場といったムードが漂っている。それにしても、この膨大な松の薪を二週間余りも焚き続け、”焼き締め”という高火度の炎の芸術を表現し、人智を越えた神秘的魔力を引き出している。
かつて、フランスの批評家が「陶芸家の手の中には、全宇宙すべての要素を素材としている」といみじくも言った。絵画には“絵はだ”という名状しがたい魅力があるが、陶芸でも“土のはだ”が、視覚的にも触覚的にも重要な魅力となっている。そのフォルム(すがた)については、改めていうまでもあるまい。
坂爪さんは、陶芸の修業とともに、築窯の術にも長けた名手であるときく。昭和54年、国際交流基金より派遣され、アメリカで客員教授として教えるかたわら、ニューヨークで世界的な陶芸家と知られるピーター・ヴォーカス氏の築窯に献身的な協力、その知遇を得て、彼の芸業に深い感銘を受け、近代的感覚を学んだようである。
その東洋的陶芸の伝統と、西欧の現代的感覚との接点に立った作家の姿勢、つまり、その和魂洋才の行方を、しばらく暖かく、またクールに見守って頂ければ幸いである。(鈴木 進) |